Saturday 11 October 2014

演出家という職業に必要なこと

今でこそ、演出家という、相手の良さを引き出す職業をしていますが、実は!

私という人間は社会性が皆無でした。
今でも皆無だ!と言われますが、今以上にとことん皆無だったのです。
それがどうして、かなりの社会性を必要とする、演出家という職業について、かろうじてなんとかやっているのか。。。皆目見当がつきません。

もっとも、社会性の無い人間が、社会を映す鏡である演劇を眺めるわけですから、かえって客観的になって良いのかもしれません。
が、稽古場という現実の人間関係対応は今でも大変気を使います。気を使いすぎてパワーを失うこともあります。

が、大事なのは私の人間関係ではなく、お客様になにを伝えるかです。

戯曲(お芝居の台本になる本)を演出するにはとてもたくさんのことをこなさなくてはいけません。

その作品をどんな絵で見せたいかとか
その作品からどんな音が聞こえてきたいかとか

空想の引金は様々ですし、いろいろ思いつく順序は演出家によって違いますが、少なくとも、人が何かをしている絵の連続で、観客の心を動かさなくてはならぬという大命題は同じです。

すると、絵や音という問題以前に、どんな人物を描写するのかが一番大事になります。

そこで必要なのが人間観察。
そして彼らの生きている社会の考察。

とくに道徳と常識。
なぜならドラマの主役たちはほとんどが不道徳と非常識に関わるからです。
私がよく参考にするのは、いはゆる文豪と呼ばれる作家の作品。
明治のものもロシアのものも、心理描写と社会・生活描写が、知らない世界を教えてくれます。

このようにして、その戯曲の内面と背景を勉強して、さてどんな絵で見せようかという段になります。

時代設定をそのまま使うのか、エッセンスを取り出して象徴や抽象で展開するのか…

一般に、演出家のセンスやスタイルが最もわかりやすく人目につくのが、ここです。

が、それが頭の中にある段階までなら社会性がなくても、勉強熱心で、創作意欲と想像力があれば、大丈夫。

問題はそのあと。
これを具現化する段階です。
プロデューサーとスタッフ、俳優、といった、自分とはものの見方の異なる人達を説得しなくてはなりません。

ことに名作古典となると、それぞれが「こうあれかし」というイメージをかなり強く持っているので、刷りあわせはなかなか大変です。

腹を立てず相手を立てて、自分のイメージを上演する意義と根拠を根気よく伝えていかねばなりません。

落ち込まず、疲れを見せず、来るのが楽しいと皆が思える稽古場を作ります。

言うは安し。
10円ハゲができます。

「休みの時は何してるの?」
よく聞かれますが、稽古がなくても休みではなく、次の作品探しや翻訳、執筆が待っている演出家は多いでしょう。
遊びに行っても、場所の内装や照明や、自然の中でも木もれ日やらが全て、作品作りのための情報としてインプットされていきます。
ですから演出家としての活動は絶え間なく続くのですね。
遊びも仕事というわけです。

もっとも仕事が遊びなんですから文句は言えません。

演出家の脳みそは、こんなふうに、いつもアンテナを360度に張り巡らせて、
情報受信
→情報解析
→情報分類
→アクセス
→忍耐と笑顔を付加して利用
という具合いに活動しているのです。

きっとこれは演出家やクリエーターだけでなく、優秀なビジネスマンも、同じではないかと思います

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